も暮しちゃいけないことになるもんだから、あのひと、煩悶してたわ。そりゃ……」
 れい子は言葉を途切らしたがちょっと声をひくめて、
「……このごろ、いろんなことがあるようでもまだナカナカなのね。内緒だけれど、はる子さん、しくじったのよ。それでずっと工合がわるかったんですよ」
 サワ子が、明るい圧えつけられたような空気の中でそっと溜息をついた。柳が沈黙をやぶった。
「医者にかかったんでしょう? でも」
「二十五円もとられたんですって……出血がとまらなかったのよ」
 ミサ子は堪らない心持になって云った。
「実際ひどいもんだわ。働かすときには結婚していることなんか無視して働かしといて、いざ倒れたとなるとみんなおっかぶせちまうんだから」
 れい子が、不安そうに片頬笑いをうかべて、
「私なんか、あやういもんだワ」
と云ったが、誰もそれを笑えなかった。
「だってあなたんところ勤めてるんでしょ」
「そりゃそうだけれど、いつどんなことになるかしれないじゃないの。……人間の体だもの」
「ねエ、バカにしてるわねえ」
 サワ子が熱心に云った。
「何ぞって云うと女らしくしろ! 女らしくしろって会社じゃ云うくせ[
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