題でもおこると、クビになるのは大抵男の社員ではない。女事務員だけを懲罰的にクビにする。そんな片手落ちのことがあるものかと、よくみんなの問題になるのだ。
「……女事務員と云ったって、経営でいろいろ辛さもちがうんだわねえ」
ミサ子はしみじみした心持になって云った。
「でも、どっちみち損なのはお互様に女だわ」
「――大経営のところでは辛いったって仕事の上だけでしょう。特等席だわ。……お話しんならない意地のわるいことをするわよ。室んなか両手をコウひろげて追いまわして来てさ」
みどりは仕方をして見せながら真面目な、殆ど腹を立てた少女みたいな口ぶりで云った。
「いつまでもひっぱずしてるところへ人でも来ようものなら、一旦通した十枚ぐらいの書類を『オイ! こりゃ何だ!』って、一字ばっかりの誤字で、ビリビリ目の前で裂いて見せるわ」
「……あなた仲よしってないの?」
ミサ子はみどりが気の毒になってきいた。
「学校が東京じゃなかったし……私たちみたいなのは駄目よ。事務所でだっていつも独りぼっちだし……なお弱い立場なのね」
見栄のないみどりの話をきいているうちに、自然とミサ子の頭の中に××○○会社の女
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