以上の切ないものがある。我知らずつり込まれて、
「あなたの方も、えらい?」
「違うわ! そりァちがうわ。あなたのはとにかく大会社だけれど私のは個人経営だし……丸ビルの中なんて、トッテモひどいワ」
みどりは秋田から逃げて上京して来た。英文タイプも出来るのだが、そんなわけで東京市内にちゃんとした紹介者と保証人がないから、ミサ子のいる××○○会社のようなところではどんなにしても雇ってはくれない。試験も、保証人もいらない個人経営の事務所の女事務員に職業紹介所から雇われるしかないのだ。
「顔だけみてすぐ雇うのヨ、そういうところじゃ。大抵一部屋だけ事務所に借りていて、隣りはもうよそだから、図々しいもんだわ。……始っからそれを予算に入れて何したって尻をもちこみようのない、保証人なんかなしの若い女をよろこんでつかうんです」
「仕事のほかのサービスまでやらされるの?」
「……私たちの辛いのはそれだわ!」
クサクサすることがあるらしいみどりの素振りのわけがわかった。ミサ子たち××○○会社の女事務員が腹を立てるのは、またそれとは違った。男の社員と女事務員とを昔風に区別し、男の社員と女事務員との間に恋愛問
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