のだ。が、守衛は、金モールで××商事のマークを縫った詰襟の上から、冷淡な軽蔑した口元をしてミサ子を見下している。――
ミサ子には訳がわからない。
「――私何かわるいことをしたんですか?」
「何か悪いこと? 人を小馬鹿にしたことを云うもんじゃない! う? 大体何と心得てるんだ。この頃の女どもと来たら変な洋服で一日じゅうとび廻るかと思いや、ふざけた恰好して……さ、名と部を書け。あとで厳重に処分するから」
受付へミサ子はさっさと歩いて行った。縞ネクタイの男は、片手をズボンのポケットへ突込んだまんま、顎をしゃくって、
「おい、この女に紙と鉛筆をやる」
と云った。
「さ、書くんだ。正直に書くんだぞ」
ミサ子は口惜しさから人さし指の爪が白くなる程力を入れて鉛筆を握り、紙一杯に大きい字で××○○会社△△部大井田ミサ子と書いた。
ミサ子がこっちを向いて書いてる間、縞ネクタイは足を開いて立ちぼんやり玄関前の舗道を眺めていた。
書き終ったと分ると、
「どれ、こっちへよこした!」
と、皮の厚い手をのばした。横面に平手うちをくらわせるような気持でミサ子はさっと紙をつきつけた。
縞ネクタイは、読み下
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