る幾台もの自動車のボディーはキラキラ日に照っているが、××商事の豪壮な石造の入口の奥は暗くひんやりして見える。
何段もの石段を小走りに登って、ミサ子は詰襟の受付に順子への面会を求めた。
左手に長い廊下がつづいている。そこに、後から光線をあびて順子の姿が黒く現れた。下を向いて何か紙片れのようなものを見ながらゆっくりやって来る。
ミサ子は執務時間中に来ているのだ。気がせく。
「ちょっと!」
声を殺してせいたが、勿論順子には聞えない。紙片れを事務服のポケットへしまったのを見すましてミサ子は、両手をゲンコにし、ランニングの恰好を真似して体の前で動かして見せた。順子は、遠くから首を曲げ、
「なあに?」
という思い入れだ。早くったら! のんきね。ミサ子がもう一遍袂を振ってランニングの身ぶりをし、おいでおいでをゲンコのまんまの手でしたときだ。いきなり、
「おい! 何してる、そこで!」
びっくりしてミサ子が振向くと、立っているのは、縞のネクタイをつけた背広の男だ。
「え? 何してるんだ、ここで!」
ミサ子は凝っとその男を睨み、それから守衛の方を見た。変な、何か悪ふざけをしかける男かと思った
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