的に働けば非常に時間をとります、だからいま小説を書きたいと思っているんだから当分、組合の仕事は少ししかしないで置こうというような気持。実際そう思うときもあるでしょうが、それは新しい文学を生もうとする人としては間違っています。なぜかといえば、組合の仕事やその他の組織の活動で私どもは新しい社会感覚、それに立つ文学表現を蓄積していくのです。その経験こそいわゆる「才能」を解放する力です。谷崎潤一郎にしろ、永井荷風にしろ、どんなにしたって自分たちの生涯のなかで経験することの出来なかった一つの新しい、ほんとうに民主的な文学の基盤というものが、今日の若い人民的世代のためにひらかれているというのは実にここです。そこにわれわれの人生があり、題材、テーマがあり、私どもの詩と小説がある。ですから組織生活を否定してしまったのでは新しい文学も生きている手足をかっ浚《さら》われて、「民主主義文学」という頭だけで机の前に坐っているのと同じです。だからといって文学の現実の問題は、ふくざつです。二・一までのストライキの時に多くの方が経験しておられることですけれども、全く文学に関心のない組合員と同じようにビラを貼り、メガ
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