ります。
 すべてのこういう事情はこんにちの文学の上にどういうふうに反映しているかといえば、皆さんはあの七戦犯の判決が公表された翌日、新聞が作家石川達三の話を載せたのを読まれたでしょう。判決の結果に対しては何もいえない、ただ将来に期するしかないという意味を石川達三談として書かれていました。この同じ作家が戦争が終結した時にどういうことをいったかといえば、日本がまた再び過ちを犯すならば自分も犯すだろうとはっきりいっています。その石川さんが世界平和のために、人類の平和と文化のための機関であるユネスコの役員になっていられます。そういう矛盾は日本にしか見られないと思います。そして矛盾はどこによりどころをもっているかと云えば、「お父さんは生きています。信念を貫いたのですから」という言葉が公然と云われた、その同じ根拠です。この人たちはみんな生きているファシズムの顔を見て声もきいているでしょう。私どもはつまりきょうの日本のこういう現実を掴んで私どもが自身の運命を托してそのために努力している日本の民主化がどういう状態におかれているかということをいまこの瞬間に通じる自分の問題として知らなければならないと思うのです。日本にファシズムは生きています。同時に日本のファシズムを寄生的に生かす世界のファシズムが存在しています。イギリスのバーナード・ショウはああいう皮肉やですからその点ははっきりしています。彼はファシズムが、自分の国にながく生きがよく存在していることを新聞でいっています。日本のファシズムは便乗してお墨つきで生きているのです。
 世界文学について真剣に考える時、このことを忘れてはいけないと思います。口の先であるいはいろいろ印刷物の表面では民主化、民主化といって、日本の民主化は進行している、きわめてスムースに進行しているというようなことをいいながら、その半面で露骨にファシズムを植えつけて行くことが可能なような社会意識に日本を止めておくことは私ども日本の人民にとって非常に恐ろしいことです。そして、人民としての恥辱だと思います。なぜかといえば、毒がどれだけわれわれの体に廻るかということを知らないうちに、毒が注射されているからおそろしい。
 そういう注射を心づかないでいるなんて、云いわけにもなりません。ドイツがヒットラーのナチスのためにあれほど悲劇的壊滅をした。すべてのドイツの人がファシスト
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