成は、一年前、「水晶幻想」を書いた時分の都会風な、ヨーロッパ的モザイックの手法とはまるで違った綿々として「香の立ちのぼる」ような筆致でこの霊界物語を書いている。龍江という女のことばをかりて、力をこめ「人間は何千年もかかって人間と自然界の万物といろいろな意味で区別しようとする方へばかり盲滅法に歩いて来た」から、そのひとりよがりが「魂をこんなにさびしくした」のだ。いつかまた人間は「もと来たこの道を逆に引きかえして行くようになるかもしれない」といっている。物質のもと[#「もと」に傍点]は不滅であるという唯物論的一元論を、川端康成は、この作品中で七生輪廻や転生の可能へねじまげてしまっている。
よしんば、作者自身龍江ほどそれを現実としては信じないまでもこういう霊界物語にひどく「抒情歌」の美を感じ、その美をとぎあげてこの一篇の小説の中へ盛りこもうとした情熱だけは、まがうかたなく感じられる。
「水晶幻想」時代にでも、現実の激しい社会生活から遊離した川端康成の主観玩弄の癖は一つの特徴だった。有閑なブルジョア・インテリゲンチアらしく脳みそ[#「みそ」に傍点]は一秒間にどれだけ沢山のものを連想し得るかを
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