あるから、作者の努力は十分に納得される条件をもっている。石川氏という作家の資質にあった題材でもある。
 村民の経済事情が悪化し剥脱されてゆく過程、市会議員の利権あさり、官僚的冷血、自然発生的に高まりやがて無気力な怨嗟《えんさ》にかわってゆく村民の心持の推移などを、作者は恐らく実地にあたって調査した上で書いているのであろう。龍三や安江などの性格化、シチュエーションには、「蒼氓」でこの作者の示した好みの再現が感じられる。石川氏の筆致は、動きがつよくあってしかも奇妙に立体性、色や音がない。そういう大衆ものの持つ特徴が混りあいながらここでは作者の真面目な調べの力で最後まで読者をひいてゆくのである。

 現代社会における都会と農村との関係が、複雑な矛盾に充たされていることは、作者もいっているとおり、様々の形でいくつかの「日蔭の村」をこしらえつつある。農村と都会との分離、対立は文化の面だけでさえ傷ましい裂け口を深めつつある。農村の人々が都会人に対する感情には実にひとくちにいいつくせぬものが籠っているのであるが、それならばといって、都会の住民の九十パーセントは、今日果してどういう現実に生きているので
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