大会の大事な演壇である。
飾りっけない後の灰色の壁に、赤い「ナップ」旗が張られている。
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│日本プロレタリア作家同盟第三回全国大会万歳!│
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赤いプラカートだ。
右手の粗末な数列の床几に、ドタ靴の委員たちがゾロリとかけ、新しい木や古い木をブッつけた台の上へ議長がのっている。
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│文学運動の基礎を全国の工場へ! 農村へ!│
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大書した、一九三一年の「ナップ」指導的スローガンがみんなの頭の上からさがっている。
六十五人の同盟員と三百人近い傍聴者とは、ギッシリ観客席を埋め、手に手に二十八頁の議事録をひろげている。
徳永直が、例の二つの黒い鼻の穴で階級を嗅ぎ分けるというような恰好で、熱心に委員橋本英吉の報告をきいている。「肩を聳した」小林多喜二がいる。煙草にむせて苦しそうに背中を丸めて咳きながら、黒島伝治が議事録に何か細かく書きこんでいる。男の子を膝の上に抱いて、その子の頬っぺ
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