たと同じ赤い丸い頬っぺたをした松田解子。
火みたいな速口で、活溌に、ときにはやや見当はずれに質問動議を連発する堀田昇一。
他の多くの同志のほかに――妙な者が会場に混っている。スパイと警官だ。
赤い布をかけた机に向っている五人の書記が、順ぐり出て、
「日本プロレタリア作家同盟第三回大会へのメッセージ!」
と声を張りあげ、情熱をもって、各友誼団体からのメッセージを読みあげた。が、文句が「革命」「ハリコフ」という市の名、「共産主義的」又は「ナップの国際的拡大」という言葉にふれようものなら、忽ち、
中止!
だ。
「――農民は野蕃人のような生活を強いられている。そして」
中止!
交代した書記の一人が朗読最中、苦しまぎれトッサの智慧で「我々はバツバツ主義の」
というやいわぬに、
中止!
これは、みんなの哄笑と猛烈な抗議的拍手をよび起した。
議事録はと見れば、そもそも一九三〇年度の作家同盟の文学活動を要約すれば云々というスローガンが真黒に塗り消されているばかりではない。三一年の活動方針のところでは、「その方針を決定するに当って、根本的な条件をなすものとして」以下、真黒だ。爪でひっ掻いたって、墨汁をぬたくられた作家同盟の活動を決定する根本的な条件なるものは、見ることができない。墨汁の下に何が抹殺されたのか? 「ナップ」の国際組織加入その他ハリコフ会議の決議である。
官憲は大会のはじめっから終りまで「ハリコフ」という四字を、そのほかのいろんなプロレタリア芸術運動の階級性を示す言葉と一緒にタブーにした。断然いわせなかった。
だが、大会へのメッセージは、トヨタマ刑務所の内から、朝鮮プロレタリア作家同盟(カップ)から送られたばかりではない。ドイツ・ナップ支局からメッセージが来た。アメリカの革命的芸術家団ジョン・リード・クラブは、日本プロレタリア作家同盟に同志の挨拶を送ってよこした。
ロンドンだって、黙ってはいない。世界の革命的プロレタリア芸術運動への激励と、ソヴェトの守りを主張している。
大会の議題と議事録から、官憲は日本プロレタリア作家同盟の国際的同盟加入の問題を墨汁の雲で塗りかくした。
でも、この事実はわれわれに何を告げるだろうか? 全プロレタリア解放運動の戦線強化につれて、その文化的一翼であるプロレタリア芸術運動は、今日もう実質的に国際化しているということである。
だが「ナップ」は、第三回全国大会に各国からのメッセージをうけとっただけで安閑としてはいられない。官憲が「ナップ」の国際的同盟加入に関して、その討議さえ禁止した事実は、そのままのこってわれわれの将来の活動を現実に掣肘する。
すでに実質的には国際的に拡大している「ナップ」の活動が、大衆の力によって国際的に組織化されたのであるが、それはどの程度まで合法の形をとり得るだろうか?
官憲が「ナップ」にしかけたわながここにある。世界の階級闘争の大勢がどっちを向いて流れているか、それは手にとるように明らかだ。これまで合法的組織として活動し、だんだん生成して来た「ナップ」を、それが国際的なプロレタリア文学運動に結びついているという点でひっかけ、挫き、無力なものとしようとするこんたんなのだ。
「――議長! 緊急動議!」
「はい」
「さっき朝鮮プロレタリア作家同盟(カップ)からのメッセージがよまれましたが、この際、特別な意義ある『カップ』に対し、われわれは大会の名においてメッセージを送りたいと思います」
「ただ今、朝鮮プロレタリア作家同盟へ大会の名においてメッセージを送ることが緊急動議として提案されましたが、どうですか?」
「異議ナシ!」
拍手。拍手。盛な拍手が起った。
「異議ナシ!」
「では、起草委員を選んでそのことに当りたいと思います。選出方法は」
「議長一任!」
大会は、朝鮮プロレタリア作家同盟ばかりでなく、他の友誼団体へのメッセージ起草をも決議した。
討議は正味八時間余ブッ通して行われ、日本プロレタリア作家同盟は第三回大会で、内容的に、一歩、確然たる前進をした。
一九三〇年の第二回大会で、作家同盟は「文学のボルシェビキ化」を決議した。そして、「前衛の目をもって書く」ことを目標としてやって来た。
一年間の作品行動にあらわれた現実の成績は、ところで、どうだったろうか?
「ナップ」の作家たちは、確に生活的に一つの発展をした。作家主義を脱し、プロレタリア大衆の中へ! という作家たちの努力は強く、実際に今日工場、農村で労働し階級闘争しているプロレタリア、農民と何かの形で接触をもたない作家はなくなった。
作家は、前衛的大衆の闘争を、生きた題材として捕えた。たくさんのストライキと農民闘争は、すぐ「ナップ」の作家の書く作品に盛りこまれた。
さて、大切な問題は次にあ
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