関係で生活感情の分裂、両天びん的困難に陥っている場合が多い。ここでもまだ文学というものが、旧来の型にしたがって考えられており、その人々の一見平凡な勤労的日常とは何かかけ離れた、何か文学的[#「文学的」に傍点]なものによって、何か現実とはちがった色調の空気によって、作品は創られてゆくべきかのように思われている。そのために、それらの若い人々は、勤め先ではここは只月給をとる場所と思い、文学の仕事に向うと、その困難に対して、こんな日頃の生活だからと文学的[#「文学的」に傍点]なるものの欠如を歎く事情におかれ、つまりは自分の生活全般に自信のおき場を失い、人生に向って声をかける手がかりを失うことになっている。
文学の大衆化を云うのであるならば、こういう生活と文学との古風な分離の常套感を、先ず人々の感情から一掃する必要がある。毎日の生活の中へ確かりと腰を据え、その中から描いてゆくこと。自分のこの社会での在り場所を、人及び作家としての気構えで統一的に生き抜き、経験し、そこから作品をつくってゆくことを、自然な方法として示される必要がある。真の文学というに足りる文学は決して文学的[#「文学的」に傍点]な
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