か動機というか、スプリングとなっているものは、嘗てロマンチシズム時代の青年が、新しき世ひらけたり、という風な激情を身内に覚えて芸術を求めてゆくのではなく、勤め先、家庭、この社会での自身の一般的境遇に何か云わずにいられないものを感じていて、そこから文学をやるしかないと思っている人々。又、現代社会の経営的機構は一個のXなる青年の生涯を冷酷な一部分品、しかも消耗したら手軽にいくらでもとりかえることの出来る部分品としてだけ扱っているので、謂わばこの世に自分という人間の生きているという固有名詞をせめて印刷物の上にでも主張したいという、名誉心と云っては言葉が大きすぎるような感情から、比較的個人の才能にしたがって道を拓くことの可能が残されている文学の仕事に心をひかれている人々等があるのである。
政治、経済、軍事上に自己を発揮する機会をもっていない半島の青年たちが、近頃盛に音楽、舞踊、文学の分野に努力を傾けている。この現実と、以上のような青年たちの文学を愛する感情の底にあるものとは、私たちに何事かを考えさせずには置かないのである。
ところが、現在職業をもたなければ、経済的に困る若い人々は、文学との
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