文学のディフォーメイションに就て
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)手強《てごわ》く
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九四〇年五月〕
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私たちの日常生活にある歴史の感覚というものを考えてみると、いろいろ非常に興味ふかくもあり同時にこわいようなところがある。一定の時間がすぎて、所謂歴史となって目の前に現れたとき、その時代の諸関係諸要素というものがある程度まで客観化されて、例えば今日明治初年の文化の性質を語る場合のように、把握しやすい輪廓をもって見えて来るけれども、今日の私たちの生活の感覚が日々の歴史の全体の動きと、自分という個人の歴史とのかかわり合いの刻々の断面を、どのように感識し、わが生活の実質として自分に把握しているかということになると、実感に立っての答えは極めて複雑であろうと思う。
私たちが、今日の時々刻々を歴史として明確に自分の生活の足の裏へじかに感覚しつつ生きてゆく習慣に馴らされていないということは、人間の歴史としての、飾らない歴史の感情に馴らされて来ていない過去の思考の伝習の影響
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