裂の形が、ああいう調子の随筆となって表現されていると思える。
一昨年ごろ、文壇で報告文学のことがとりあげられるとともに、素人の文学というものが一部の人々によって云々されはじめた。素人というのは、この場合、職業的作家ではない生活人という意味であって、その動機は、従来職業作家が、限られた作家的日常の範囲でふれ得ている社会現象、社会感情より昨今の現実は更にひろい複雑なものとなっているのであるから、文学において玄人でない人々が、直接素朴な生活の見聞感情から書いたものが、文学のひろがりの中で評価されて行かなければならないという意味であったと思う。
文学の実際としてみると、このことは今日の文学のありようとの関係で極めて微妙な結果をもたらしていると思える。素人の文学が、その生のままの生活感で日本の現代文学をより豊富なものにしてゆく速度よりも寧ろ、素人の文学としてうけいれられてゆくことの底をなしている今日の文化感覚の急速な下降を却って促進し肯定する形になっている方が、影響として顕著であるような傾きがある。
素人の文学ということが評価にのぼる場合、そこには、文学の技術に於てこそ素人であれ、生活人と
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