ればならないようなとき、とくに女の側にこの条件があるとき、事情ははなはだいりこんでくる。
このような場合の苦しいいきさつを、徳永直の「はたらく人々」はアサという植字の婦人労働者を女主人公として、こくめいに描きだしている。いまから十年前にかかれたこの小説を、きょうの印刷工場に働いている若い婦人労働者、アサに似たような家庭条件でこれから結婚しようとしている若い婦人労働者がいてよんだとしたら、そのひとはどんな感想にうたれるだろう。
モーパッサンの「女の一生」にはっきり古典を感じた彼女は、アサのような「女の一生」を自分の明日にうけとりたいと思わないだろうと思う。この小説に描かれている山岸アサが生きたよりもっと、ちがった生活をもちたいと切実にねがうにつれ、彼と彼女とは、組合の力が現実にどこまで労働者の生活を改善しているか、ということについても考えずにいられないだろう。いつになったら日本の労働者が、養老年金のとれる社会をつくるだろうと思わずにいられまい。そしてアサの時代は婦人労働者が未組織だったのだということを考え、同時に、現在は組織されていてもまだめいめいの個人生活の苦痛は、個人的な解決にま
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