かされている部面の余り多いことにくらべて、はるかに社会保障の大きい社会主義の社会を思いくらべずにいられないだろう。遠いよその土地の美化された物語としてではなく、このごたついた、でこぼこのひどい、けなげなひとびとの足もつまずきやすい障害だらけの日本の中で、じりりじりりと推しまわされてゆかなければならない、人民の民主主義にたつ社会へ新しいまわり舞台。その仕組みについて考えるとき、彼女は若々しい人生への意欲と愛とにもえればもえるほど、ほかならない自身の肩に、しっかりうけとめて推してゆかなければならない、労働者階級の勝利への心棒があることを感じるだろう。けなげで忍耐づよいアサの知らなかった生活と文学の実感がここにある、新しい歌がある。
 文学の仕事をしてゆこうとしている人は、実感を尊重して、文学のこと以外に多くのことを学ばなければならないということは、多くの人によって云われている。いつか佐多稲子が小説を書く人の心がまえとして、意識というと階級意識と限って考えられる傾きがあるけれども、階級についての意識ばかりでなく、生活のうちにふれてくるすべてのことに意識をもたなければならないという味わいの深い
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