れからの文学のことばのなかには漱石も知らず、志賀直哉の生活と文学にもなく、「細雪」にもないいろいろの社会科学のことばや、科学のことばが、こなれてはいって来るようにもなるだろう。わたしたちの生活の現実で社会の関係についての常識や、人民的国際関係についての常識はどんどんひろがるのだから。

 きょうに生きるものとして、社会の自分について感じる実感の問題にもどる。
 さっき「女の一生」からひき出された話としてふれた今日の婦人の社会生活、家庭生活にある諸問題の例は、工場に働く婦人労働者の場合、一層負担の重い苦しいものになる。きょうでさえ日本の婦人労働者の賃銀は平均して男子の六〇パーセントに達していない。やすい労働力としての婦人の労働の力は、この節の合理化によって益々搾取の対象となっている。組合内家庭内の封建的な習慣もまだなくなっていない。
 だから、かりに職場で、進んだ労働者としての経験を通じて愛し合うようになり、結婚しようとする若いひとくみの男女が互の間では、随分進歩した協力的な生活設計を考えられるとして、二人ともが失業した場合、また結婚しても、どちらかがあいての親たちの生活扶助をつづけなけ
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