とおされて来たときの社会主義的リアリズムの創作方法。
 文学の創作方法が社会の歴史の発展につれて、階級社会の認識の確立とともに、そして新しい形態での人民社会の建設の成果とともに、一歩一歩とより広い展望におしすすめられて現在に至っていることは、一人の個人の社会と人生と文学の世界の見とおしとひろがりについて見ても、実によく分る。今日の社会で過去の私小説の現実のつかみかた、書き方では、主人公一人の実感さえ、それが現実にある複雑さではとらえきれなくなっている、これは明瞭である。
 現実のいりこんだ関係がこんにちのように複雑になると、これまでのせまい創作方法ではその全部の内容をいちどきにつかみとることができなくなって、リアリズムなんかは古くさい、何かもっと現代をがっしりつかむ創作方法を、という要求も起る。日本のジャーナリズム小説の大半を占めている風俗小説――中間小説とよばれている作品の作者たちは、戦後の日本のどっちを見てもバラック、ガタガタなあさましい世相を、これまでの私小説的手法ではうつしきれないと、そこからとび出た形として主張している。
 なるほど私小説、心境小説の限界は、はっきりしている。
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