前進的に社会的に解決してゆこうとする張りあいのうちにしか、いわゆる幸福とか歴史的価値への信頼というものはないことをも発見してゆくだろう。
 このような一つの例は、小説を書こうとする若い女性に、あるいは若い男性に、文学の創作方法がもっている生きた歴史を会得させるきっかけにもなるかも知れない。平凡な物憂い夫婦生活と、はんこで押したような勤め先の仕事。そのものうさを人生の姿としてそれなりに訴えずにいられなくて、書きはじめられた小説が、考えすすみ書きすすむままに、やがて次第にすべてそれらのものうさの原因を、主人公の内部にあるものと、外の社会とのありかたとの関係のうちに批判をともなって、発見されてゆきはじめる。リアリズムは批判的なリアリズムと成長しずにいない。そして、その批判が、組合の仕事や日本の国内、国外の社会事情についてより科学的な知識をひろげてゆくにつれて、愛情そのものさえ歴史の脈動とともに性格づけられるものであることが発見されてくる。ただイデオロギーとして社会主義が分ってきたばかりでなく、人間は幸福を求めているというなまなましく根強い実感、熱情そのものとして個人の人生も歴史の展望の中に見
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