がある。「家庭」がそれだけ魅力であり、それだけ大きい負担であるという現実は、日本の社会施設が働いて生きている男女とその子供、老人たちにとって安心と幸福とを与えるものでないという証拠にほかならない。一人の初々しかった二十歳の女性がきょうまで十五年の間に、頭も胸も硬くこわばって、三人の子供の母として日常生活の中に灰色になってしまったからと云って、そのこんにち、二十歳の新しい婦人が一人の女をそのようにあらせてしまったそのままの男と、そのままの社会と組みあわされたとして、その十五年後に、かつてはみられなかった彼女の顔の上に見られるものは何だろう。その十五年の後に、一層しっかりと人間らしさを発展させた自身を彼女が見出そうとするならば、過去の年月の間で一人の女性を化石させてしまった家庭というもののありかた、夫というもののありかたそのものを、日本の社会の問題として批判し闘ってゆく男の新しい社会観念とともに、出発しなければならないだろう。そして、たくさん、自分とあいての人とのもつ矛盾にぶつかってゆくだろう。もし彼女と彼とが人間らしければ、それらの絶え間なくおこる矛盾をお互の間で、またお互と外部との間で
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