矛盾、衝突の問題が考えられずにはいない。なぜなら、「この心の誇り」の男主人公は、無駄な時間をトランプ遊びについやして、空虚に愛情ばかりをせがんでいる妻をもつ科学者だった。彼は自分の仕事に助手として働く若い婦人に自分の生涯をかけた仕事と人生の真実なみちづれをみ出してゆく。そしてそこに新しい生活がきずき直された。
こういう小説のテーマは第二次大戦前においては、日本の文学にとっても、ある新しい社会的意味をもっていた。けれども、こんにちのとくに日本で、生活を現実的にたたかっている職場の若い婦人が、男の側からの人生の再要求とでも云える、「もっと新しい内容での結合という進歩的な意義」との説得に、新しい愛人としての優越感ばかりで誇らかであり得るだろうか。職場で働き、職場でたたかいつつある若い独立した婦人であったらばこそ、女の上に新鮮な意志と情感が花咲いていた。もしせまい家庭にかがまって夫に依存する女になったら、急に色あせ、しぼむことはないものだろうか。二人で働いて、たたかって生きてゆこうというのならば、きょうの日本では、まだまだ婦人よりも「家庭をもつ」男性の感情のなかに整理されなければならないもの
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