仕組みこそ、勤労人民をこのひどいやりくり生活においているのであるし、植えられてゆく一字一字の内容が、いわばこの死活問題が、どういう方向で処理されてゆくかということにかかわっているのである。一行、頽廃の文字がより多く植えられれば、勤労人民生活の向上に関する一行は現実に減ってゆくのである。
それぞれの生産部門の特殊性というものは、意味ふかい自省を求めていると思う。出版・印刷の全組合員が、悪出版に抵抗して、組織ある発言をするとき、闇出版屋の横暴が何の痛痒も感じないということはあり得ない。出版・印刷関係の勤労者は、もっともっと自分の仕事の社会性を知ってほしいと思う。目さきのケースを越して、そこにつながる自分たちの人生のねうちとして、活字を見てほしいと思う。その一字一字が、自分の声のかたまった形として感じてほしいと思う。
これまで、文筆家・作家たちは、自分たちの文筆活動について、稚い幻想をもって来た。文筆活動は、肉体の勤労よりも人間的に高級ででもあるかのように思いこまされて来ている。しかし、それが非現実であるのは、夏目漱石の遺族がどんなに印税をとったにしろ、岩波書店ほど金もちにならなかった一
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