トルストイやゴーリキイまでが読みたいと思われ、読書は生活の必要と感じられている。組合は、文化部の意味を理解しはじめて来ている。けれども、このような悪質な闇紙問題にからむ悪出版について、出版・印刷の労働組合とその組合員はどう考えているだろうか。
印刷行程の困難な事情に応じて、出版・印刷関係の勤労者が、最低生活を守るために闘った。物価の高騰と歩調を合せないまでも、いく分ましの賃銀の条件になり、婦人は生理休暇ももてるようになった。
けれども、本当に自主的な自覚のある勤労者として、今の日本の、民主化とは皮肉悪辣に逆行している出版事情を観察した場合、働くものの鋭い見識と実力の発揮は、単純に、経営者対被雇傭者の経済問題だけに局限されているはずのものなのだろうか。自分の指先で植える一つ一つの字が、自分たちの階級の善意を愚弄するような本質のものであるのに、その作業から経営者が厖大な利潤を得るからそれを合理的分配に置こうとするだけであるなら、勤労者の人間としての要求は、一面的だと思われる。直接の関係がそこにあらわれないかのようではあるが、そういう闇紙の存在、悪出版の横行そのものを可能にしている社会の
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