間に、こわらしい罪名をつけて、たった四畳の室へ何しに十二年もの間、押しこんで暮させたのか。そこにどんなよりどころがあったのか。権力だからそれが出来たというならば、その不条理が不審でたまらないのであった。
「もういいの?」
「ああ、もういい」
「――さっきの話――あの、がんばりのことだけれど、よく云って下すったわね」
重吉は、ちょっと改まった視線でひろ子を見ていたが、
「でも、さっきひろ子は泣いたんだろう」
いくらか、からかい気味に云った。
「それは泣いたわ。泣けるのがあたりまえよ。そうじゃないの。だから、よく云って下すったというのよ。これから、何でもあなたの気がついたことはみんな云って頂戴ね。これは本当のお願いよ」
手紙ばかりで暮した年月は、それらの手紙がどんなに正直であったにしろ、整理されたものであるにちがいなかった。その意味では、ひろ子が重吉に示す生活感情も計らぬきれいごととなっているとも思えた。
「わたしは、何でもよそゆきでなく自分があるとおりにするからね。いやだとお思いになることがあったら、どんなにべそをかいてもいいから、云って頂戴。腹の中で、ひろ子というのはこういうんだ
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