風俗の感受性
――現代風俗の解剖――
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)瀰漫《びまん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九三九年五月〕
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 人類の歴史が、民族の移動やそれぞれの社会形成の過程に従って、各世紀に特徴的な風俗をもって今日まで来ていることは、誰にしろよく知っている。歴史を縦に切った一つの世紀の中でも、地球を横にまわって見て現れる各国の風俗というものは、決して一様ではなく、いつも必ずその世紀の本質とかかわり合いながら、その国独自なものとして現われている過去と未来への諸要因を示しているものだと思う。風俗というものは、その時代に生きる人々の感情を微妙に反映しているから、非常に複雑な性質をもっている。だから風俗について話す価値や面白さは、その風俗がいいとか悪いとか趣好的に或は道義的に現象の表面だけとりあげるよりも、寧ろ、そういう風俗が生れたのは何故か、どういう諸関係がその社会にあったからそれぞれの風俗が生れたのだろうかという処まで立ち入って触れて行くところにあるのだろうと思う。
 夏目漱石の
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