同様な、或るときにおいてはより以上の価値を有っていたものである。そして、今もなお、他の由緒ある家系のアイヌがそうである通り、彼もそういう物に偉大な尊敬を払って、それを失い穢すことを畏れているのである。
 完く、イレンカトムは、譲るべき財物と共に、豊の帰る日まで、彼の手に渡る日までさえ確に生きていれば好かったのである。
 けれども、追々には、コロポックルまでが、宝物を強請するように成って来たとき、イレンカトムの心は、どんなに乱されたことであろう。
 コロポックルは、赤い膳を呉れろの、彫りのある鞘を寄来《よこ》せのと云う。そして遣られないと叱り付ければ、いろいろな罵詈雑言《ばりぞうごん》を吐いて、彼を辱しめる。
 吝嗇坊《けちんぼう》だと云って、人は皆嘲笑っているぞと云ったり、自分独りで沢山の宝物《イコロ》を隠しているから、見ろ、部落中の者がお前を憎んでいるのを知らないか、と云ったりする。
 豊が来るまで。
 どうぞ、豊に手渡ししてしまうまで!
 宝物を奪われないため、人に詐されないため、執念深いコロポックルに負けたくなかった。
 どうぞ、ほんとにどうぞあの豊坊の帰って来る日まで!
 ただ
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