ているではないか。
 イレンカトムはびっくりして、一体どうしたのだと訊くと、どうしたどころではない、お前はもう少しで海に溺れる処だったのだと、通りすがりの彼等が、暴れる彼をようように押えつけた始末を話して聞せた。
 その訳を聞いたとき、イレンカトムは、涙を流さんばかりにして、コロポックル奴に騙《だま》されたのを口惜しがった。
 昔は、屈強な若者で、自分の手から逃げる獣はないとまで云われた自分が、小人風情に侮られて、惨めな態《ざま》を見られなければならないことは、彼にとっていかほどの苦痛であったか分らない。
 二人に送られて家に帰ったイレンカトムは、神聖なイナオ(木幣)の祭場所に永い祈念を捧げた。
 こんなことさえあったので、イレンカトムのコロポックルは誰知らぬ者のないほど有名になってしまった。
 なかには、親切に、魔祓いのお守やら、草の根、樹の皮などを持って来てくれる者もある。何鳥の骸骨《がいこつ》がいいそうだと云って、故意《わざわざ》獲って来てくれる人もある。
 皆が心配して、いろいろとして自分に近寄ってくれることは決して厭ではない。が、何かがその後に隠れていそうで、イレンカトムは心
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