と光り、チャラチャラとなり、陽気で賑やかで、その上強い権力を持っている者の方が、どんなに魅力があるかとは考えないのである。
 イレンカトムは、泥棒だの人殺しの巣のような処に思える東京へ息子を遣るくらいなら、もっと早いうちに自分が死んででもいた方が、どんなに仕合わせであった[#「た」に傍点]ろうとさえ思う。
 彼は夜もおちおちとは眠らずに、家の守神を始め天地の神々に祷《いの》りを捧げ、新らしいイナオ(木幣)を捧げて、息子の霊に乗り移った悪魔があったら、追い出して下さることを願ったのである。

        五

 けれども、豊はとうとうイレンカトムを負かし、或は悪戯者の悪魔が祷りに勝って、彼は総ての点において成功してしまった。
 地所も売り、その代金全部を自分の懐に入れ、それを鳴らしながら、彼の理想通りの出立をしたのである。
 イレンカトムは、涙をこぼしながら、息子が行ける処まで行って見ようと云って出掛けた報知を受取ると、直ぐ、昔から親切に家畜や地所のことで世話をしてもらっている山本さんという家へ出かけた。
 そして、S山の方へ引込みたいから、どうぞそのように取計って下さいと云った。

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