ったペケレマットとの愛情が、ただ彼の上にのみ注ぎ合って、豊はあんなに美くしく生れ出た。逞《たくま》しい子孫を与えるために、神様が下すった者ではあるまいか、きっとそうに違いない。
 が、そうして見ると、神様は何故あんな道楽者になすったか?
 イレンカトムも、これには困ってしまう。けれども、神の仕事をいつも邪魔するニツネカムイ――悪魔がいたずらをどうしてしないと云えるだろう。
 何にしろ、神が天地を創るときにさえ、太陽を呑んで邪魔しようとしたほどの悪魔だもの、自分に来る子が、余り美くしく、余り立派なのを見て妬まないことがあろう?
 そして、考えれば考えるほど可愛い者は、豊だ、ということに落付くのである。
 こうして見ると、彼の豊に対する愛情は、亡き妻に対し、見えない神に対し、また豊の陰にいれこになっている未見の子孫達に対する愛情とすっかり混り合っているのである。
 自分の不幸な部分は皆悪魔のせいにして、諦めて行こうとする心持も入っている。が、彼はここまでは考えて来ない。万事を、神《カムイ》と悪魔《ニツネカムイ》との間に纏めるのである。
 こういう心持を持っているイレンカトムは、豊に就て、真
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