の方を覘《うかが》った。と、彼女は急に息をつめたような表情をして、くるりとさを[#「さを」に傍点]の方へ振向いた。
「――鈴木じゃない?」
「――そうでしょう? どうもそうらしいと思ったんですよ。私も。…………」
二人は改めて頭を重ね、熱心に玄関を覗いた。覗きながら、百代は訊いた。
「――家へ来るのかしら」
「西洋人の方らしゅうござんすよ」
玄関では両親が出て応待していた。百代が来たときは、もう大体話は出来たらしく、どっちが何と云ったのか、母親のいねが、膝をついている太った肩を揺すりあげて、
「まあ、面白いことをおっしゃるんですね」
と愉快そうに高笑いしているところであった。
「――じゃあ何です――お部屋を御覧願いましょうか」
母親が後を向き、いきなり大きな声で、
「おさを[#「さを」に傍点]ど――ん」
と呼んだので百代は、ぎょっとして首をちぢめた。さを[#「さを」に傍点]は余り近くにいたのと不意なのとで、直ぐに返事が出ないらしかった。
「いないのかい、おさを[#「さを」に傍点]どん」
百代は、あわててさを[#「さを」に傍点]を小づいた。自然に、
「は――い」
という返事をしそ
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