貫く忍耐づよい研究心、真実を愛する精神、克己、根気を基礎に自分を発展させることがわかる。
「プラーグの栗並木の下で」を見ているうちに私の心をうったのは、そんな名優とか大俳優とか一生云われることのない俳優たちが、どんなに熱心に科白を云い、扮装をし、舞台に一つの創造の世界を実現させて行こうと努力しているか、ということの感動であった。更に、その感動に加えて、それらの俳優たちが、かつらをかぶりAという人物になりきろうとし、衣裳と科白とでBという人物になりきろうとしているのにかかわらず、その役によって却って何とまざまざと自分という一個の存在内容をむき出しているかということであった。
文学の世界では、戦争中にうけた損傷のひどさが大規模にあらわれていて、誰の目にも被いがたく見えている。民主日本となろうとする暁方の鳥の声のような作品はまだ出ない。そんなにすべての若い才能の芽がつみとられ、剛健な中年の成熟が歪められ、老年の芸術家の叡智を低下させてしまったのである。
劇壇の人々は、戦争の間、どんな暮しをして来たのだろうか。「プラーグの栗並木の下で」を観ていて痛切に心に浮んだのはこの問いであった。戦争
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