芭蕉について
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)朧《おぼろ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)渾沌|翠《みどり》に

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから2字下げ]
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 芭蕉の句で忘られないのがいくつかある。

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あらたうと青葉若葉の日の光
いざゆかん雪見にころぶところまで
霧時雨不二を見ぬ日ぞおもしろき
[#ここで字下げ終わり]

 それから又別な心の境地として、

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初しぐれ猿も小蓑をほしげなり
おもしろうてやがてかなしき鵜飼かな
馬をさへながむる雪のあした哉
住つかぬ旅の心や置炬燵
うき我をさびしがらせよかんこ鳥
[#ここで字下げ終わり]

 雄大、優婉な趣は、

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辛崎の松は花より朧《おぼろ》にて
五月雨にかくれぬものや瀬田の橋
暑き日を海にいれたり最上川
荒海や佐渡によこたふ天の河
[#ここで字下げ終わり]

 そして「枯枝に」がある。

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枯枝に烏のとまりけり秋の暮
塚も動け我泣声は秋
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