、ただいまと云い終るか終らないに、土間にいたつや子が、挨拶にこたえず、
「しげの[#「しげの」に傍点]さん、お風呂の加減みにゃ」
と云いつけた。子供らと遊びながらひろ子は、それをきくと何となしびっくりした。障子のかげで、しげの[#「しげの」に傍点]の姿は見えない。けれども、そういうのが毎日のことになっているらしく、しげの[#「しげの」に傍点]は黙って向う座[#「向う座」に傍点]と呼ばれる小部屋へ荷物をおいてから、また裏へまわって行った。
裏山の茂った杉の梢に、溶けるような美しい斜光がさしていた。ほど近い駅の構内で、転轍した貨車がリズミカルな響を立ててぶつかり合いながら接続されている音が、海に近い西国の小さい町の澄んだ大空をわたってきこえて来る。台所から燃木のもえる煙が匂っている。何年もの間ここへ来たとき見馴れ、ききなれているそれらの地方色にかかわらず、自分たち石田のうちのものの生活は変ってしまった。
東京を立つ前、ひろ子は土産ものをさがして銀座の三越へ入った。がらん洞に焼けた地階のほんの一部分だけを、ベニヤ板や間に合わせのショウ・ケースで区切って、当座の売場にしてあった。紙につつん
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