。監獄のころには、なかに茶畑などまであったらしく、数株の茶の木がまだ残ったりしている原っぱの中のふみつけ道を辿ってゆくと、旧敷地の四分の一ぐらいのところへ退いて拘置所のコンクリート塀が四角くそびえ立っていた。新開の歩道から草原ごしにその高塀を眺めると、塀の上から白っぽい建物の棟々が見えたりして、余り異様な感じは与えない。しかし、一歩ずつその塀の根もとへ近づけば近づくほどその高さが普通でないこと、その高塀があたりまえのものでないことがわかった。高塀には人の目の高さのところに、一つ小さな切窓があけられていた。面会願の手続きがすんで、番が来るとその切窓のわきのベルを押した。すると、重い扉がのろのろと内側から開けられる。その扉の大さは人の身丈の何倍もあったし、切窓に向って佇んで待っているとき、ひろ子の体はまるで、その高塀の根に生えている雑草と同じに低く、無力なものに感じられるのであった。高塀はその高さで異常なばかりでなく、その扉が内側から開けられなければ、よしんばひろ子がその扉にもたれて失神したとしても、外からのひろ子の力では一寸たりとも開けられない性質をもって、突立っているのであった。
 重
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