ろ子の行動にのり出してくれるのは日頃ないことであった。
「でも大丈夫かなあ? 一人で……何しろ凄いよ、今の汽車は……」
「私もそれが心配なのよ」
「仕方がないわ」
ここの田舎へ来るうちにも、そのひどさは十分身にしみている。ひろ子は、弁当だけもって行くつもりであった。
「ここでいくら苦心したって、又どうせ東京で乗換えなけりゃならないんだもの」
「夜行でない方が安全だよ、同じことにしても……」
東側の縁側へ行って、ひろ子は例の行李を開いた。広島のことをラジオできいたとき、ひろ子はすぐ安否をきいてやった。きょうの速達は十八日に田舎の局のスタンプがおされている。ひろ子の手紙とはゆきちがった。そして、これは二十日目についた。
母やつや子が、直次のことを知ったのは、既に十一二日ごろのことであった。偶然、直次と同じ班の友達が、ふらりと、
「直次君、戻ってでありますか」と店先へ訪ねて来た。
「いえ、戻って居りませんが……どうでありますか」
話はそのようにして初めて耳に入ったのであった。
ひろ子は、行李の中のものをすっかり出して、大風呂敷へうつした。仕事の用意をすこしと、そして底の方へ喪服を入
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