越して公会堂の円屋根の遙か彼方に連っている山々。農家の馬小屋の間から思いもかけずに展がる目路に高い西の山々。どの山も、秋の山襞を美しく浮き立たせ、冬の近づく人間の暮しを思わせた。ひろ子は、ひとしお網走を恋うた。
そういうある午後、富井の門の内に男の子たちが集まって大さわぎをやっていた。伸一を先頭に金鎚、薪割、棒きれを握った少年たちが、声を限りに大活動をやっている中心には、光る銀灰色に塗られた流線型の小型ボートめいた物がころがっていた。
パーンと、反響を大きくそれを打つ音がした。
「アレ! 俺らの手、ズーンちったよ」
「駄目だてば! 吉川、ここだったら、ホレ!」
三四人が懸声を合せて、流線型をひっくりかえした。そのはずみに、自分も裸足《はだし》になって大いに参加していた四つの健吉が、ころんところがされた。
「健ちゃんがころげたぞ!」
「なアに、つええなア、もう一つ、ホーラ。でっくり返すべ!」
稚なごえをはり上げて、「健タン、健タン」と叫びながら起き上った健吉が、またもや勇ましく流線型にとりついて行った。
それは、飛行機につけるガソリン・タンクであった。こしらえたばかりで戦争が終
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