日本は変る。変る波の一つ一つを、ひろ子は重吉の妻としての我が身の立場にはっきり立って、犇々《ひしひし》とうけて、生きてみたかった。
空爆で途絶していた青函連絡船は、今度は復員で一般の人をのせなくなってしまった。
網走へもって行く筈の行李につめてあった秋の単衣《ひとえ》をまたとり出して、ひろ子は駅までの行き来に着た。地図で見れば、小指の幅ほどの海、小さい陸地の裂けめ。眺め、眺めて、とうとうひろ子は、その陸地の裂けめの突端に立って、向う岸を見ていようという気になった。そこで待っていて、いざと乗れる船をつかまえよう。そういう気になった。焼けた青森の地に、バラックを立てて住みはじめたという親しい友達に、ひろ子は自分の計画を相談する手紙を出した。
三
東京港に碇泊中のミゾリー号の甲板で、無条件降伏の調印がされた。
ラジオできいていると、その日のミゾリー号の甲板に、ペルリ提督がもって来た星条旗が飾られていたという情景も目に見えるようだった。秋らしい陽の光のとける田舎の風景に、ラジオの声は遠くまで響いた。
村なかの街道は、どちらへ向いて歩いて行っても山並が見えた。耕地を
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