んだ。村じゅう、気がぬけたようになった。さてそのあと、ここの農民たちの心に、真先に浮んで来る考えは何だろうか。ひろ子は、関心を抑えることが出来なかった。
 八月九日、夕方のラジオで、ソヴェト同盟が日本に宣戦布告した公表があった。そのとき、五兵衛は畑がえりで富井のうちの縁側に休んでいた。迅速に占領された北朝鮮や満州などの戦略地点が報道されると、五兵衛は、野良もんぺを穿いただけの裸の体を、ぺったりとうつ伏せて縁側ごしに畳の上へ汗で黒く光る顔をおとした。
「日本も、はあ、こんで、仕舞った!」
 ニュースがすんでから、ひろ子が、自分に向って納得のため、というように云った。
「しかし、此は案外な事なのかもしれないよ。浦塩から日本まで爆撃機で三時間位でしょう。本当に潰す気なら、どうして、そっちをしないで、朝鮮や満州を抑えているのさ、ね? 始りにキッカケがいる、終るにもキッカケがいる、そんなこともあるんじゃないかしら」
「――なるほどね」
 五兵衛は頬骨の高い顔をもち上げて、渋色になった手拭で顔の汗をふいた。
「なるほどね、当っているかも知んねえ」
 その五兵衛にしろ、ポツダム宣言というものにつれて
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