るのは、こういうとき、つまらない遠慮でやりかたを間違えるからですよ」

 加古川の駅でみんな汽車からおろされた。不安な顔つきを揃えて改札口を流れ出た旅客の群は駅前の広場にトラックが二台待機しているのを見て、歓声をあげた。
「まあ、よかったこと!」
 ひろ子も、しんからうれしかった。明石まで一人で歩くということは、云うよりもはるかに辛いことなのであった。
 二台ともマル通のトラックで、加古川の青年たちが、旅客整理に出ていた。三列で十人。三十人一組一台のトラックに割当てて、二円ずつの料金をあつめた。秩序のあるそのやりかたも、皆を満足させた。
「のこった方は、すぐひきかえしでお送りします」
 ひろ子らは、二台目のトラックにのった。加古川の駅前は、船が通るほどの浸水だったと姫路にはつたわっている。それほど水の出た気配もない古い宿場町をぬけて、トラックは左右に明るく展望のある一本の国道へ出た。これで、明石まで行けるのかと、料金のやすさを怪訝《けげん》に思い浮べているとき、トラックは、急に速力をおとして、畑の横に停った。
「どなたも、このトラックはここまでです。先はまた別に連絡があります」
「なー
前へ 次へ
全220ページ中208ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング