、どうしてもここを出発する。そう思って、ひろ子は十一日の七時前に床をはなれ、布団を片づけた。二階の廊下から見ると、豪雨の翌朝らしい秋空が、碧《あお》く篠笹山の上に輝いた。しかし、空模様は不安で、西の方には煤色の雲がよどんでいる。
「さあ、きょうは出かけるぞ」
 隣室の一行も、金具の音を立てて荷物のしまつを始めている。
「おい、早く飯にしてくれるように、おばさんに云って来い」
 顔洗いのついでに、ひろ子は、東京までの弁当も勘定に入れた分量の米をもって下りた。入口から細長く土間のつづいた関西風の台所に、宿の嫁さんと娘とが素人めいたとりなしで働いている。小さな竈《かまど》で、小さな釜で、一行ずつの飯を別々にたいているのであった。
 けさ、出発することを話し、食事も早くするようにたのんで、ひろ子は室に戻った。そして、リュックの中を整理しているところへ、支店長が、艶のいい顔色で帰って来た。
「やあ、どうも、昨夜は失礼しました。私はおかげさんで、立派な夜具にねかせてもらってぐっすり眠って大助りしましたが……」
 まだそこに置かれている大盥に目をとめた。
「こんなに洩ったんですか」
「ええ。夜じゅう
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