て燈明の灯の暗い明るみの中に寝そべりながら喋っている。やがて、隣室の復員兵の一人が唄をうたいはじめた。おそらく頭の下に両手をかって仰向き、膝立てした脚を重ねて、朝鮮の兵舎の草原でもそうやって唄ったのだろう。今雨もりのする、列車不通の姫路の宿の暗がりで、その男は、次から次へと、いろいろの唄をうたった。レコード覚えの流行唄ではなくて、何々音頭、何々甚句という種類の唄である。
廊下の燈明の、弱い黄色い光が襖の立て合わせから、ひろ子の布団の裾にさしこんでいる。たいして声がいいというのではなかったが、唄に心をいれて唄っているその気分が、聴くものをうるさがらせず、ひきつけた。おっつぁんがときどき、陽気に景気づけようとして、手拍子を入れたり、口三味線で合の手をいれたりしている。佐渡おけさのときは、五人の一行がみんなで唄った。
「――これに替歌があるんだぜ、知ってるかい」
そう云って、また、その男が一人で、別のうたを唄った。一時間の上、そうやってうたっていた。兵隊らしい猥褻《わいせつ》なうたはひとつも出なかった。ひろ子は、うたの終らないうちに眠ってしまった。
十七
きょうこそ
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