軽蔑するように、おっさんは鼻であしらった。
 考え耽り、或は隣室の話声に耳をかし、ひろ子が時のたつのを忘れていたところへ第一建物会社の若い者が、使に来た。キャバレーの主人は、岡山までの汽車があるうち逆行することにしたから、スーツ・ケースをわたしてくれ。松だけは、のこしておくからよいように、というのであった。
 その使いが去って、ひろ子は荒れた宿にまた一人のこった。障子をあけて手摺ごしに見ていると、裏の篠笹山に、薄すり日が照って来て、どこか見えない屋根のあっちで、鳶が舞いながら澄んだ声で鳴くのがきこえた。うすら日に白く光る両脚が段々まばらになり、鳶は高く舞い鳴き、そのまま晴れるのかと思う間もなく風立って、篠笹山にさーっと音を立てて雨がかかって来る。その眺めには、変化があった。
 肌寒くなって、ひろ子はリュックから羽織を出してセルに重ねた。そこへ、素早い道づれにおき去られた支店長が、失望の表情で帰って来た。
「困ったことになりましたな、どうも」
 入るなり云った。
「今のところ恢復の見込みは全然ないんだそうです。明石から先はいいんだそうだが、そこまでが駄目なんです。もとだったら徹夜をかけて
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