紙の中で、数通に亙ってその批評をした。ひろ子が、どの点では譲歩しすぎている、どの点では、健気《けなげ》に理性を防衛しようと努力している、と。そのとき、ひろ子は学んだ。ひろ子にとって最小限だったそれらの譲歩は、重吉としてみれば、妻としてのひろ子に寛容し得る最も大きい限度に近いものであったのだ、ということを。
 ひろ子に対する重吉の寛容、堪忍づよさは、ひろ子なしではやってゆけない重吉だからそうなのではなかった。全くその反対であった。重吉はひろ子なしでもやってゆけるが、ひろ子のまともな生きかたにとって重吉は不可欠である。それを重吉が知りつくしているからのことである。そして、ひろ子との関係をそのように血肉のものとして理解しているのは、重吉の愛によるのであった。
 隣室の兵たいは、あーあ、と退屈のやりどころない伸びをして、
「チェッ! 底ぬけでやがら」
 舌うちした。
「きょうも、涙の雨がふる、か」
「冗談じゃねえよ。あの思いで遙々朝鮮くんだりから還って来てよ、内地へついて吻《ほ》っと出来るかと思いゃ、大阪を目の前に見て足どめだ。二日だぜ、もう!」
 むきになって云っているおっさんの声をききなが
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