は決定的な相異であると思えた。今東京への途中にいてひろ子の念頭にあるのは重吉ばかりであった。重吉のことだけ思いつめて行動していれば、ひろ子にとって必要な生活の諸部面は、それにつれて拓けひろがって来た。重吉は、東京へ、ひろ子のところへと、いそぐ跫音がきこえるように帰りつつあるにしても、ひろ子は自分の存在が、重吉がそれに向って帰って来つつあるもの全体の中の核の一つとでも云うようなものであると考えた。
 これまでの十幾年の生活を思ってみれば、それは明かだった。ひろ子は、重吉というものなしに、自分のその間の生きかたを考えることは不可能であった。しかし、重吉はひろ子というものがいようといなかろうと、本質において、決してちがった生きようをする人間ではなかった。ひろ子は、これまでの平坦ならざる長い月日の間に、一度ならずそれを痛感した。
 例えば七年前、ひろ子はプロレタリア文学運動に参加したという理由で、起訴された。三年の懲役、五年の執行猶予が言い渡された。そのとき、ひろ子は文学にある階級性を最後まで主張しきれなかった。重吉は、自分の公判準備のとき、ひろ子に関する書類をすっかり読んだ。そして不自由な手
前へ 次へ
全220ページ中198ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング