ひろ子は、くつろいだ。そして、きょうは十月十日だ、と思った。無期懲役だった重吉は自分の前にひらかれる扉の間を、どんな思いで通るだろう。自由になって、初めて踏む土は、重吉の草履の底からどんな工合にその心臓へ伝わることだろう。小一年監禁生活をさせられて急に外へ出たとき地べたが足の裏になじまなかった異様な感じを、ひろ子は思いおこした。そして、看守という伴《とも》のつかない一から十までの行動もその伸び伸びさが特別な感じであった。すべては重吉にとって新しく、世間そのものが十余年そこから生活を遮断されていた重吉にとっては新しいのだ。ひろ子には、その亢奮と、自覚するよりも大きい重吉の疲労とが、手にとるようにわかった。いのちに漲り、危険な疲れを潜め、而も一点曇りなき頭をあげて、重吉は東京へ帰って来る。
――帰って来る重吉は、ひろ子のところへ帰ってくる。――それにちがいないのだけれど――ひろ子は隣室の退屈した兵士たちが、代る代る裏廊下へ出て、空模様を見ては天候に悪態をついているのをききながら考えるのであった。ひろ子が、東京へ、重吉のところへと帰ってゆくこころもちとは、どこかちがうところがあり、その相異
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