もっとその身に切迫した熱心さをあらわしている。
「その家も駅からすぐのところやさかい、もしお気に入らなんだら、駅へじき行かれます。若い男がいるさかえ、送らします」
徐行、徐行して、須波の駅へ列車が入り、どやどやと不満な旅客の大群がそれぞれの大荷物を背負ったり、さげたりして真暗な雨の車外に溢れ出したとき、ひろ子は、自分に道づれの出来ていたことをうれしく思った。
須波の駅は真暗闇で、たった一つ駅夫のもって歩くカンテラが、妙な高いところで小さい光の輪をつくっている。駅員が道の案内をするでもなければ、道しるべになる提灯がつけてあるでもない。雨の暗い駅にたった一つのそのにぶい光は乗客が影を重ねてこぼれ出た露天ホームまでは届かず、たちまち混乱がおこった。
「どっち行くんや!」
「見えへんじゃないか」
「こっちだ、こっちだ!」
「千代ちゃーん! 千代ちゃーん!」
あわてた女の叫び声が雨の暗闇をつんざいた。
ひろ子は、暗くて足もとが全く見えない中を滑りながら、人々が我がちに登ってゆく右手の崖の横木へ足をかけた。つれの男が、
「大丈夫ですか? わかりますか?」
ひろ子によりすがった。
「眼の見
前へ
次へ
全220ページ中178ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング