えんものは、こいうことになると実に困ります。――ここでいいんでしょうか」
法外に足かけの幅の遠い滑るだんだんをやっと崖上へ出た。そこは、人家の裏の細道らしく、小流れの音が片側にきこえた。雨にうたれながら荷物を背負った人々は、真暗闇の中に、びしゃびしゃ泥濘《ぬかるみ》の音を響かせ、
「こっちか?」
「まっすぐだ!」
「てんで見えやしねえ」
不機嫌に時々よびかわし、雨傘をさしたひろ子とつれとを追い越した。徒歩連絡らしい列は、どこにも出来ていなかった。足のはやい、力のつよい男たちが、自分たちだけでぐんぐん先へ行った。ひろ子のつれとなった男は、緑内障《あおそこひ》で、ほとんど両眼の視力が失われているのであった。
それをきいてひろ子にはその快活そうでひどく気弱な男のとりなしの万端が諒解された。ひろ子は脚がよわい。その男には視力がない。その二人が、それぞれの目的で、須波と三原の間の、雨の夜道を歩こうとしているのであった。壮年にかかわらず視力の弱い男が、一種の勘で、丈夫でないひろ子を道づれとして見つけたことを、面白くも思えた。
月夜ならばそれが桜の樹だとわかりそうな並木のある堤のような道も、
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