境遇の現実である。ひろ子はそこに、つや子の哀れを感じた。
母と二人きりになったとき、ひろ子は母の膝に手をかけて、
「お母さん」
と云った。
「お母さんのお心を思うと、わたしは、何とも云えないの。何てひどい物々交換でしょう。ね、お母さんは、大切な一人の息子とひきかえに、やっと一人の息子をとりかえしなさったのよ。何てことでしょう」
「ほんにのう」
母は、深い息をついた。そして、遠い山の頂の松を眺めながら、
「――進三がまだのこっちょる」
やさしい愛着にみちた母親の声でつぶやいた。
「あれのおるところに、食べるものはあってのじゃろうか……」
十六
目じるしにビロードの小切れを結びつけられたリュックが、再び頭の上の網棚にのっている。そのリュックの中には、お握りの弁当があり、丈夫な二つの紙袋があり、中ぐらいの大さの丸罐も一つ入っていた。紙袋の一つは万一の用心のための米であった。もう一つの紙袋には、挽きたてのハッタイ粉が入っていた。重吉からの手紙の中で、故郷のハッタイ粉をなつかしんで話していたのが思い出された。第一に、それを食べさせたい。じかにそれをつや子に云いかねて、
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