ろ子は、さわ子の若い女に珍しいそういう自然の故の沈厚さ、なだらかな故の威厳とでもいう雰囲気を愛した。ひろ子の精神をその底からつかんでいる近い未来への待ち望みには、希望の面にも不安の面にも、ポツダム宣言とか、刑法とか、あれこれの解釈、あれこれの条項というようなものが絡み合っていた。細かい事態の起伏、執拗な相互関係をたたみこんだものとして、明日が見えている。泳ぐ人が一つ一つのなみをのりこしながら、なお大きい海面のひろがりを全感覚の上にうけとっているように、ひろ子は、重吉が示すひろやかな展望を確信し、そこに身をすてまかせて、すべての細かい状況をしのぎ越して来た。
 さわ子が若さとともにもっている雰囲気には、ひろ子にとって必要な、精神の音楽のようなその諧音がきこえた。さわ子に感じるその調和は、従兄である重吉のもっている精神の諧音に似てもいる。
 ひろ子は、久しぶりに集注して数冊のアメリカの小説をよみ、そのノートをこしらえた。数年来、日本には、外国作品についてさえ、批評らしい批評は存在し得なかったのであった。
 ひろ子が、中庭ごしの室で、例の机に向いそろそろ五時かと思うころ、
「ただいま!」
 
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